5歳児健診で作業療法士は何を見る?健診から届ける就学前の支援

なかがわ

こんにちは!
茨木市で児童発達支援事業や保育所等訪問支援事業を行っている「えんりっち」の中川です。

令和6年度から、こども家庭庁の母子保健医療対策総合支援事業の一つとして、5歳児を対象にした健康診査への財政支援が始まりました。

これまで法律で義務づけられている乳幼児健診は、1歳6ヶ月児健診と3歳児健診の2つだけ。

3歳児健診を受けた後、次の公的な健診は小学校入学前の就学時健診まで、約3年間の空白がありました。

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5歳児健診は、この空白を埋めるための取り組みです。

ただし、現時点では5歳児健診はあくまで任意であり、実施している自治体はまだ多くありません。

こども家庭庁は令和10年度までに全国100%の実施を目指していますが、補正予算による事業のため、今後の継続が不透明な部分もあります。

この記事では、5歳児健診の現場に作業療法士として参画している立場から、健診で何を見ているのか、そして健診を就学前の支援にどうつなげるかについてお伝えします。

参考:こども家庭庁「1か月児」及び「5歳児」健康診査支援事業

目次

なぜ「5歳」なのか?3歳児健診では見えないもの

3歳の時点では、言語や社会性の発達がまだ途上にあるため、発達の特性が表に出にくいことがあります。

「ちょっとゆっくりかな」で済んでいたことが、5歳になり、集団生活で求められることが増えてくると、はっきりとした困りごととして見えてくることも。

たとえば、順番を待つ。ルールのある遊びに参加する。自分の気持ちをお友だちに伝える。こうした場面で「うまくいかない」が重なると、子ども自身が集団の中で自信を失っていくこともあります。

5歳児健診は、就学前のこの段階で子どもの特性に気づき、小学校入学までに必要な支援や配慮を準備するための機会です。

鳥取県では、小枝達也氏らが2000年代から5歳児健診を継続的に実施し、健診を受けた子どもたちの就学後を追跡した研究を行っています。その結果、5歳児健診の実施により、就学後の不登校や学校不適応の発生率が低下したことが報告されています。「見つける」ことではなく、「就学後に困らないよう早い段階で備える」ことに意味がある。この研究は、5歳児健診の意義をそう裏づけるものです。
参考:小枝達也「5歳児健診:20年間の経験」(認知神経科学, 2017)

5歳児健診では何をするの?

自治体によって多少の違いはありますが、一般的な5歳児健診の流れは以下のようになっています。

保護者による問診票の記入に始まり、身体計測、小児科医による診察、運動・言語・社会性・生活習慣に関する問診と観察を行います。必要に応じて、心理士や言語聴覚士、作業療法士などによる専門相談も実施されます。

問診や行動観察では、たとえば「片足で5秒以上立てるか」「しりとりが3往復以上できるか」「順番を待つことができるか」といった項目を通じて、運動機能、言語理解、社会性の発達を確認します。

健診の詳しい内容や流れは、こども家庭庁の研究班が作成したポータルサイトにまとまっています。

健診で作業療法士が見ているもの

5歳児健診に作業療法士が参画する場合、医師と同じ場にいながらも、見ているポイントが異なります。医師が身体の発育や診断的な判定を中心に見るのに対し、作業療法士は「できる・できない」の判定だけではなく、「なぜできないのか」「その背景に何があるのか」を分析する視点を持っています。

ただし、5歳児健診への作業療法士の参画は全国的にもこれからの段階です。日本作業療法士協会でも情報交換会を通じてOTの役割を明確にする取り組みが始まったところであり、以下では私が実際に現場で見ていることをお伝えします。

参考:5歳児健診への作業療法士参画に関する情報交換会(神奈川県作業療法士会)

運動面|「できる」の裏にある左右差

問診や行動観察では「片足立ち」「ケンケン」「模倣」「指先の動き」といった項目を確認しますが、作業療法士が見ているのは、その結果だけではありません。

たとえばケンケンの項目。

右足では数十回できるのに、左足では2〜3回しかできないということがあります。座っているときにも姿勢が左に傾いていて、体幹の力の未熟さがあると判断できる。就学に向けては、授業中に座っていられるように体づくりをしていくことをお勧めしました。

生活の中では得意な足でケンケンをするので、「できる」と思われがちです。

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健診というスクリーニングの場だからこそ、こうした左右差に気づくきっかけになります。

このように、体幹が安定しているか、バランス感覚(前庭覚)の処理はどうか、ボディイメージは育っているか。「できない」の背景にある体の状態を見ています。

体の大きな動きが不安定な子は、手先の細かい作業(鉛筆を持つ、ボタンをとめる)にも影響が出ることがあり、運動面の評価は就学後の学習や生活にも直結します。

社会性・行動面|参加しにくさの背景を読む

集団での活動場面では、「集団に参加できるか」「一斉指示で行動ができるか」「順番を待てるか」「ルールのある遊びに参加できるか」といったことを観察します。

見知らぬ子がいることで母親の膝から離れにくい。
常に周囲の子どもを見ながら行動する。
楽しくなると合図を聞かずに走り回ってしまう。

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参加のしにくさとして表れる姿はさまざまですが、その背景も一つではありません。

不安が強いのか、自信のなさがあるのか。自信のなさにしても、指示の理解が難しいのか、活動の中で求められる運動が難しいのか。

子どもによって背景はまったく異なります。

表に見えている「参加しにくさ」の奥にある要因を読むことが、作業療法士の役割です。

健診はチームで子どもの全体像を捉える場

5歳児健診で確認する領域は、運動面だけではありません。

着替えや食事といった生活面、言語やコミュニケーションの発達も重要な観察項目です。

ただし、これらの領域はそれぞれ中心的に担う専門職が異なります。生活面は保健師が日常の聞き取りの中で確認し、言語・認知面の評価は心理士や言語聴覚士が主に担当します。

とはいえ、自分の担当領域の外だからといって評価をしないわけではありません。

集団場面での様子と問診での様子を照らし合わせながら、子どもの全体像について専門職同士で共有する。お互いの領域にも視点を持って観察することが、健診の場では必要です。

健診は、一人の専門職が判定を下す場ではなく、複数の視点から子どもの全体像を捉える場です。そしてその全体像をどう活かすか。

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健診の「その先」の話は、後半で改めてお伝えします。

能勢町での実践。全員を診られる小規模自治体の強み

私が5歳児健診に関わるようになったのは、大阪府作業療法士会への問い合わせがきっかけでした。

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能勢町から「作業療法士に来てほしい」という声があり、担当することになりました。

能勢町の年長児はおよそ30名。今年度は10名前後を1回として、年間3回の出務で全員を診る予定です。

この規模だからこそできることがあります。

一人ひとりと向き合う時間がとれること。そして保健・福祉・教育の担当者が顔なじみの関係で動けること。

健診の場で気づいたことを、その場ですぐ次の動きにつなげやすいのも、この規模ならではだと感じています。

一方で、5歳児健診の実施率は全国的にはまだ約14%にとどまっています。こども家庭庁のまとめでは、実施していない自治体の理由として「健診医の確保が困難」「発達面の評価を主目的とする健診の実施方法がわからない」「フォローアップ体制が組めない」といった声が挙がっています。

参考:5歳児健診ポータルサイト データページ

専門職の確保や体制づくりは、自治体の規模や事情によって異なる課題です。

能勢町のように独自の形で運営している事例もあります。
健診の体制には、一つの正解があるわけではありません。

そしてもう一つ、健診の体制と同じくらい重要なのが、健診の「その先」。気づいたことをどう支援につなげるかという問題です。

5歳児健診のフォローアップ。見つけて終わりにしないために

こども家庭審議会の資料でも、「要フォローとされた子どもや保護者への福祉・教育・医療との連携によるフォローアップ体制の構築が難しい」という声が自治体から挙がっています。

健診で「気になる点がある」と伝えられても、その先の受け皿がなければ、保護者の不安だけが残ってしまいます。

5歳児健診の本当の価値は、所見を「見つける」ことではなく、必要な支援に「つなげる」ことにあります。

健診の場でできること、できないこと

健診の場で子どもに直接支援を行うことはありません。

ただし、保護者の方が気がかりに感じていることへの相談援助は行います。身体的な所見から、家庭で取り入れやすい工夫をお伝えすることもあります。

健診当日にできるのはここまでです。では、健診で得られた情報はどう活かすべきでしょうか。

健診後のカンファレンスが本質

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健診で一番重要なのは、健診後のカンファレンスだと感じています。

それまで地域の子どもたちをずっと見てこられた保健師さんとともに、検討を重ねます。

健診で観察したことと、保健師さんが持っている日頃の情報を突き合わせながら、支援の必要性や方針を一人ひとりについて考えていきます。

このカンファレンスの質は、その先にどれだけ受け皿があるかに大きく左右されます。

「この子には運動面のサポートがあった方がいい」と判断しても、つなぎ先がなければそこから宙ぶらりんになってしまいます。

健診と療育がつながるということ

自治体によっては、独自に個別のOTやSTの相談枠を設けていたり、年長児向けのグループ活動を運営していたりするところもあります。しかし、すべての自治体でそうした体制が整っているわけではありません。

そこで重要になるのが、地域の社会資源とのつながりです。

児童発達支援事業所(療育)もその一つです。

健診で見えた子どもの特性を、就学までの残された時間の中でどう支えるか。
自治体と連携しながら、就学に向けた支援を一緒に担っていくことが、児童発達支援事業所の役割の一つだと考えています。

健診で気づいたことが、カンファレンスを経て、具体的な支援につながり、子どもが安心して小学校に入学できるようになる。

なかがわ

5歳児健診のフォローアップとは、この一連の流れを途切れさせないことだと思います。

まとめ

5歳児健診は、始まったばかりの取り組みです。制度としてはまだ任意であり、実施体制も自治体ごとに手探りの状態が続いています。

それでも、現場に立っていて感じることがあります。

健診の場で作業療法士が加わることで、運動面や感覚面の背景に目が届く。
保健師や心理士と視点を重ねることで、子どもの全体像がより立体的に見えてくる。
そして、その全体像を就学前の支援につなげる道筋があれば、子どもが安心して小学校に向かうための準備ができる。

なかがわ

5歳児健診が、「見つける」で終わる健診ではなく、「届ける」健診になっていくために。私たちも現場から発信を続けていきます。

※この記事で取り上げた5歳児健診の制度情報は、2026年6月時点のものです。最新の情報はこども家庭庁および各自治体のホームページをご確認ください。

お気軽にお問い合わせください。

えんりっちでは、「自分らしく、安心して育つこと」を支えるために、支援の考え方や方針も、できるだけ丁寧にお伝えするようにしています。

療育プログラムについても詳しくサイトでご紹介しています

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