『聴覚優位?視覚優位?体感覚優位?』子どもに合った「学習スタイル(認知特性)」を見つけるヒント

なかがわ

こんにちは!
茨木市で児童発達支援事業や保育所等訪問支援事業を行っている「えんりっち」の中川です。

「テレビのキャラクターの名前は一度で覚えるのに、明日の予定は何度言っても忘れてしまう」
「『あれ取って』と言っても通じないのに、実物を見せるとすぐに動ける」

お子さまと関わる中で、このような「理解の仕方」のバラつきに、不思議さを感じたり、戸惑ったりすることはないでしょうか。

「私の教え方が悪いのかな?」
「理解力が低いのかな?」
「ふざけているのかな?」

そんな風に不安を感じて、つい「よく聞いて!」「よく見て!」と強く叱ってしまう……。そして、後になって「なんであんなに怒ってしまったんだろう」と落ち込んでしまう。そんな保護者の方のお話を、私たちはよく耳にします。

しかし、その「伝わらなさ」は、お子さまのやる気や能力の問題ではなく、単に情報の「入り口(インプット)」のタイプが合っていないだけかもしれません。

前回の記事では、入ってきた情報を処理する「ワーキングメモリ(情報の整理)」についてお話ししましたが、今回はそれより手前の段階、「情報の受け取り方」について解説します。

目次

その子が得意な「情報の入り口」はどこ?

私たち作業療法士は、お子さまの行動を見る際、「どの感覚(ルート)を使って情報をキャッチするのが得意か」を分析します。

人間には、情報をキャッチする「アンテナ」にタイプがあります。

人にはそれぞれ得意な「認知」の仕方があり、これを専門的には「認知特性」や「学習スタイル」と呼びます。学習スタイルによって「アンテナ」の働きにも差があります。

これは「優劣」の話ではなく、「右利き・左利き」のような生まれつきの特性です。

一時話題になった書籍「話を聞かない男、地図が読めない女」の内容も認知特性について男女差という視点で書いた本と言えるでしょう。

この違いにより喧嘩も絶えません(笑)が、多様な考え方があることで社会はより発展し、より豊かになるのです。

なかがわ

お互いのことを理解しようという姿勢が大切ですね。

大きく分けて、以下の3つのタイプが見られることが多いです。

① 視覚優位(カメラタイプ)目で見て理解するのが得意

言葉(聴覚情報)だけだと聞き漏らしやすいですが、絵、写真、図などの「視覚情報」の処理には強みを発揮します。

場所の記憶や、間違い探しが得意なことが多いです。

② 聴覚優位(レコーダータイプ)耳で聞いて理解するのが得意

図や地図を見て理解するのが苦手な一方で、「聴覚情報」の処理が得意です。

言葉での説明ですっと理解できたり、音マネやCMのフレーズを覚えるのが得意だったりします。

③ 体感覚優位(アクションタイプ)実際にやって理解するのが得意

「見る」「聞く」だけではピンとこず、実際に「触れる」「動く」ことで情報を定着させるタイプです。

じっとしているのが苦手に見えますが、それは「動くことで学ぼうとしている」現れかもしれません。

もし、お子さまが「視覚優位」なのに、口頭だけで指示を出し続けるのは、FMラジオしか受信できない機器に向かって、一生懸命テレビの電波を送っているようなものです。

これでは、送信する側(保護者)も受信する側(子ども)も、お互いにストレスが溜まってしまいます。

【実践】 タイプ別・環境のデザイン「伝え方」の工夫

私たち「えんりっち」が大切にしているのは、お子さまに苦手な方法を無理やり訓練させることではありません。 大人が「環境(伝え方)」をデザインし、その子の得意なルートを使って「できた!」を引き出すことです。

ここでは、タイプ別の具体的な工夫(環境のデザイン)をご紹介します。

「視覚優位」のお子さんへの工夫

言葉を減らし、「百聞は一見に如かず」作戦でいきましょう。

  • 指示の「見える化」: 「あれ」「それ」ではなく、実物を見せるか、指差しをします。
  • 手順の提示: 「宿題して、ご飯食べて、お風呂」と言う代わりに、やることをリスト(文字や絵カード)にして壁に貼ります。
  • 整理整頓: 目からの情報に敏感なため、視界に余計なおもちゃなどが入らないよう片付けておくことも、重要な「環境のデザイン」です。

えんりっちの現場でも、お話を聞く時間にどうしてもお話をしてしまうA君がいました。
「今はお話を聞く時間だよ」と何度伝えても、少し時間がたつとまた話始めてしまいます。

そんなとき「静かに」カードがあることで、ルールを覚えておくことができ、お話を最後まで聞くことができました。

「聴覚優位」のお子さんへの工夫

視覚情報が多すぎると混乱することがあるので、「実況中継」のように言葉でサポートします。

  • 言語化する: 図や絵を見せる時も、「赤い箱の隣にあるよ」「まずはハサミを持つよ」と言葉で補足説明を加えます。
  • 静かな環境で: 音に敏感で気が散りやすいことがあるため、大事な話はテレビを消し、静かな場所で、短く区切って伝えます。
  • リズムや歌で: 手順を歌にしたり、リズムに乗せて伝えたりするとスムーズに入ることがあります。

聴覚優位なお子さんは視覚情報を上手く扱えないことがよくあります。たくさんの物の中から目当ての物を探すことが上手くいかないなんてことも…

そんなとき「上から3つ目を探してごらん」とことばで伝えることで、見る場所が明確になり探しやすくなります。

「体感覚優位」のお子さんへの工夫

説明は手短に、「まずはトライ」を大切にします。

  • 体験させる: 言葉で説明するよりも、まずは手を添えて一緒にやってみる(ガイディング)ほうが早く伝わります。
  • 実物に触れる: 模型や実物を触りながら学ぶ機会を作ります。

丸や三角、四角などの形を描くとき「三角を描いて」とことばで伝えられてもわかりにくい場合があります。そんな時に手を持って一緒に描くことで上手に描ける場合があります。

発達の順序性の観点では、このアンテナは①体感覚②視覚③聴覚(言語)の順番で発達していきます。当然、まだことばの発達が未熟なうちは聴覚のアンテナは機能しづらく、体や視覚のアンテナが「情報の入り口」になります。

【まとめ】 「なんで分からないの」を「この方法なら伝わる!」へ

お子さまが指示を理解できない時、それは決して「わざと」ではありません。

その子に合った「情報の入り口」が見つかっていないだけなのかもしれません。

まずは、普段の遊びの中で観察してみてください。

  • 絵本をじっと見るのが好き?(視覚?)
  • お話を聞くのが好き?(聴覚?)
  • とにかく触って確かめる?(体感覚?)

反応が良い方が、その子の「得意なルート」です。

「なんで分からないの!」とイライラしていた時間が、「この子には絵で見せた方がいいかも?」「歌にしてみようかな?」という「工夫(実験)」の時間に変われば、子育ての負担は少し軽くなります。

もし、「うちの子はどのタイプだろう?」「学校の先生にはどう伝えたらいいだろう?」と迷われたら、ぜひ私たち専門家にご相談ください。

なかがわ

お子さまの特性を一緒に分析し、その子が一番安心して力を発揮できる「学びの環境」を、一緒にデザインしていきましょう。

お気軽にお問い合わせください。

えんりっちでは、「自分らしく、安心して育つこと」を支えるために、支援の考え方や方針も、できるだけ丁寧にお伝えするようにしています。

もっと具体的に知りたい方へ向けて、支援プログラム全体の構成や考え方をまとめた資料もご覧いただけます。

また、「うちの子の場合はどうかな?」「ちょっと見学してみたい」と感じた方は、どうぞお気軽にご連絡ください。

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