なかがわこんにちは!
茨木市で児童発達支援事業や保育所等訪問支援事業を行っている「えんりっち」の中川です。
「おもちゃを片付けて、手を洗って、それから食卓に座ってね」
保護者の方がこのように伝えたのに、お子さまは最初のお片付けしかできていなかったり、まったく違う遊びを始めてしまったり……。
「どうして、うちの子は話を聞いてくれないの?」
「さっき言ったことを、どうしてすぐに忘れるんだろう?」
「集中力がないのかな? それとも、わざと無視しているの?」
そんな風に感じて、つい「さっき言ったでしょ!」「ちゃんと聞いて!」と強く叱ってしまうことに、自己嫌悪を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
私が臨床で出会ったお子さんの相談の中でこの「お話が聞けない」という内容はとても多かったように思います。
実際子ども達と遊んでいても、お話の途中で脈絡もなく他の遊びを始める子、クイズをしていても最後まで聞けずに当てずっぽうで答える子などコミュニケーションの難しい場面に良く出会います。
また保育園や学校訪問でも、先生の指示を覚えられず、1テンポ行動が遅れてしまったり、周囲の行動を見て必死に付いて行っている子などをよく見かけます。
以前の記事(感覚過敏) では、情報の「入力(感覚の受け取り方)」 についてお話ししましたが、今回は、入ってきた情報を「どう処理しているか(情報の整理の仕方)」 に焦点を当てていきます。
子どもの行動を左右する「ワーキングメモリ(脳のメモ帳)」とは
私たち作業療法士は、お子さまの行動の背景にある「理由」を探る専門家です。そして、指示が通りにくいお子さまに関わる時、私たちは「ワーキングメモリ」という脳の働きに着目します。
これは、情報を一時的に記憶し、それを処理するための脳の機能です。
私たちが会話をしたり、計算をしたり、料理の段取りを考えたりできるのは、この「脳のメモ帳」に必要な情報を書き出し、見比べながら作業を進めているからです。
この「メモ帳」の大きさ(=一度に覚えておける情報量)や、メモを整理する能力(=情報を処理する力)には、生まれつき個人差があります。
なぜ指示を忘れてしまうの?脳内で起きている「容量オーバー」と「上書き」

お子さまの「脳のメモ帳」が、大人と比べて小さかったり、一度にたくさんのことを書くのが苦手だったりしたら、どうなるでしょうか?
- メモ帳がすぐにいっぱいになる(記憶容量の問題) 「①片付けて」「②手を洗って」「③座ってね」という3つの指示は、メモ帳の容量を超えてしまい、最初の「①片付けて」しか書き込めないかもしれません。
- 新しい情報が入ると、古いメモが消えてしまう(注意・抑制の問題) 指示を聞いている途中で、楽しそうなおもちゃ(視覚情報)や、テレビの音(聴覚情報)が目や耳から入ってくると、そちらが新しくメモ帳に上書きされてしまい、肝心の「指示」のメモが消えてしまうことがあります。
つまり、お子さまは「話を聞いていない」のではなく、「脳のメモ帳に書き留めておくのが難しい」だけなのかもしれないのです。
「訓練」より「環境デザイン」を。今日から家庭でできる3つのサポート
この「脳のメモ帳」の容量は、生まれつきの特性が強く、トレーニングで無理やり大きくすることは難しいとされています。
ワーキングメモリのサポートは、いわば「メモの取り方」を手伝ってあげること。記憶を「脳の中」だけに頼らせず、「脳の外」に置く工夫こそが、最も効果的な「環境のデザイン」になります。
ご家庭でできる、3つの「メモの取り方」サポートをご紹介します。
対策① 指示を「小分け」にして、脳のメモ帳をあふれさせない

「脳のメモ帳」がいっぱいにならないよう、伝える情報を最小限にします。
- NG例: 「片付けして、手洗って、座ってね」
- OK例: 「まず、おもちゃを箱に入れよう」(終わったら)→「次に、手を洗いに行こう」(終わったら)→「最後に、イスに座ろう」
なかがわ一度にたくさんの情報を処理するのが難しいお子さまには、指示を一つずつ、簡潔に伝えることが非常に有効なのです。
対策② 絵カードやリストで「見える化」し、情報を脳の外に置く

「耳から聞いた情報(聴覚情報)」は、すぐに消えてしまいがちです。消えないように「目で見える情報(視覚情報)」でサポートしましょう。
- 絵カードや写真を使う: 「やること」を写真や絵カードにし、順番に並べて壁に貼っておきます。
- メモに書く: 文字が読めるお子さまなら、ホワイトボードや付箋に「やることリスト」を書き出すのも良い方法です。
- 指差し確認: 伝えるだけでなく、「(絵カードの)次は何だっけ?」と一緒に指差し確認するのも効果的です。
なかがわ口で言うだけでなく、視覚的な手がかりを「環境」として用意することで、お子さまは「メモ」を見ながら、自分で行動を思い出すことができます。
対策③ テレビやおもちゃを隠して、刺激の少ない環境を作る

指示を伝えるときは、お子さまの「脳のメモ帳」に余計な情報が書き込まれないよう、環境を整えることも大切です。
- テレビを消す
- おもちゃを視界から隠す
- 静かな場所で、目を見て話す
なかがわこのように、注意がそれやすい刺激を減らし、集中しやすい環境を調整することで、保護者の方の「指示」という大切なメモが、しっかりとお子さまの脳に届きやすくなります。
まとめ|「わざとじゃない」と知るだけで楽になる。親子の笑顔を増やすために
お子さまが指示をすぐに忘れてしまうのは、決して「わざと」ではありません。それは、その子の持つ「脳のメモ帳」の特性かもしれません。
「うちの子は、一度にたくさんは覚えられないんだな」 「耳で聞くより、目で見るほうが分かりやすいんだな」
このように、お子さまの「情報の整理の仕方」 を理解してあげるだけで、保護者の方のイライラは「工夫してみよう」という前向きな気持ちに変わるはずです。
「鍛えなきゃ」と焦るのではなく、お子さまに合った「メモの取り方」を一緒に探してあげること。そのサポートこそが、お子さまの「できた!」という自信を育み、自ら考えて行動する力の土台となっていきます。
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えんりっちでは、「自分らしく、安心して育つこと」を支えるために、支援の考え方や方針も、できるだけ丁寧にお伝えするようにしています。
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