なぜ療育では「遊び」を大切にするの? 感覚統合のピラミッドと、子どもの「やりたい」が学びを深めるしくみ

なかがわ

こんにちは!
茨木市で児童発達支援事業や保育所等訪問支援事業を行っている「えんりっち」の中川です。

「うちの子、毎回楽しそうに遊んでいるんですが……それって本当に”療育”になっているんでしょうか?」

保護者の方からこんなご質問をいただくことがあります。

そう思われるのは当然です。
机に向かって文字を書いたり、ドリルを解いたりする姿なら「勉強している」とわかりやすいけれど、ブランコやトランポリンで遊んでいる姿を見ると、「これが本当に発達の支援になっているのかな?」と感じるのは自然なことだと思います。

結論からお伝えすると、療育で「遊び」を大切にするのは、ちゃんとした理由があります。しかもその理由は2つあって、どちらも子どもの発達にとってとても重要なものです。

この記事では、えんりっちが支援の軸にしている「感覚統合理論」の考え方を通して、なぜ遊びが学びになるのかを丁寧にお話ししていきます。読み終わる頃には、お子さんが夢中で遊んでいる姿が、少し違って見えるかもしれません。

目次

「遊んでいるだけ」に見える時間に、子どもが育てているもの

まず最初にお伝えしたいのは、「遊び」と「学び」は、子どもの中では別々のものではないということです。

大人は「勉強の時間」と「遊びの時間」を分けて考えがちですが、子どもの脳は、遊んでいる時間にこそ、たくさんのことを吸収しています。ブランコをこぐ、平均台を渡る、砂場で山をつくる。

その一つひとつの動作の中で、体の使い方、感覚の処理、気持ちのコントロールといった、生きていくための土台の力を育てているのです。

えんりっちでは、この「発達の土台」を育てるために、感覚統合の考え方をもとに遊びを組み立てています。

では、なぜ遊びが土台づくりに適しているのか。その答えを、2つの角度からお話ししていきます。

理由① 感覚統合の「発達のピラミッド」 学びと行動を支える、見えない土台

えんりっちの支援の軸になっている「感覚統合理論」では、子どもの発達をピラミッドのように積み上がるものとして捉えています。

発達はピラミッドのように積み上がる

 感覚統合の「発達のピラミッド」の図解

ピラミッドの一番下にあるのは、視覚・聴覚・触覚・前庭感覚(バランス)・固有感覚(筋肉や関節で感じる感覚) といった、さまざまな感覚です。

私たちは日々、これらの感覚情報を受け取りながら生活しています。この感覚の情報がうまく処理されることで、その上の段にある姿勢やバランス、目の使い方といった「体の基礎」が育ちます。

さらにそのうえに、運動の組み立てやボディイメージ、気持ちのコントロールが積み上がり、やがて「かたち」や「ことば」の理解につながり、最終的に学習や思考、社会性という一番上の段へとつながっていきます。

土台がぐらぐらのままでは、上は積み上がらない

 感覚統合の「発達のピラミッド」の土台が不安定な様子

ここで大切なのは、下の段が十分に育っていないと、上の段はうまく積み上がらないということです。

たとえば、「字がうまく書けない」というお悩みを考えてみます。これは一見、手先の練習が足りないように見えますが、感覚統合の視点で見ると、もっと下の段に原因があることがよくあります。

  • そもそも姿勢を保つ体幹の力が育っていない
  • 体の動きを感じ取る固有感覚がうまく働いていない
  • 目と手を連動させる力が育っていない

こうした土台がぐらついている状態で、「もっと丁寧に書きなさい」「きれいに書く練習をしなさい」と上の段だけを求めても、なかなかうまくいきません。

だから、えんりっちでは「書く練習」の前に、書ける体を育てる遊びを大切にしています。姿勢についても同じで、「ちゃんと座りなさい」と注意する前に、座れる体をつくることから始めます。

遊びは、土台を耕す最良の方法

ではどうやって土台を育てるのか。ここで遊びが登場します

ブランコに揺られることは、前庭感覚(バランス感覚)を育てる経験になります。平均台を渡ることは、姿勢を保つ力とバランス感覚を同時に使います。ハンモックやスイングは、固有感覚に心地よい刺激を与えてくれます。泥遊びや粘土遊びは、触覚の経験を広げます。

遊具や遊びの一つひとつが、ピラミッドの土台にあたる感覚に、意図的に働きかけているのです。「ただ遊んでいるだけ」に見えるその時間は、発達の土台を耕している時間。これが、療育で遊びを大切にする1つ目の理由です。

理由② 子どもの「やりたい」気持ちこそ、最大の学びを生む

さて、ここまでで「遊びが感覚の土台を育てる」という話をしました。

なかがわ

でも、こういう疑問が生まれるかもしれません。

「土台を育てるのが大事なら、大人が『はい、今からバランスの練習をしましょう』と指示して、やらせた方が効率的なのでは?」

これが、療育で遊びを大切にする2つ目の理由につながります。

「やらされている」と「やりたい」は、脳への届き方が違う

結論から言うと、子どもの脳は、自分から「やりたい!」と感じているときにこそ、最も学んでいるということがわかっています。

同じ「ブランコに乗る」という活動でも、

  • 大人が「はい、10回こいでね」と指示してやらせる
  • 子ども自身が「もっと高く!」と夢中になって挑戦している

この2つは、脳に届いている情報の質がまったく違うのです。

前者は”こなす”体験ですが、後者は挑戦し、工夫し、成功を喜ぶ体験です。子どもは後者のとき、感覚の情報を能動的に取りに行き、試行錯誤し、手応えを感じ、次はもっとうまくやろうとします。この能動性こそが、発達の土台に深く刻まれていく学びになります。

感覚統合の「インナードライブ」という考え方

感覚統合の理論には、インナードライブ(inner drive・内的欲求) という大切な概念があります。その名の通り、子どもの心の中から湧き起こる「やりたい」「やってみたい」というやる気のことです。

感覚統合理論を体系化した作業療法士のエアーズ博士は、このインナードライブを支え、それに基づいた活動に子ども自身が挑戦していくことが、感覚統合の発達においてもっとも効果的だと考えました。

大人にとっても、「やらされる仕事」より「自分から取り組みたい仕事」の方が集中できて、上達も早いですよね。それと同じことが、子どもの発達の場面でも起きているのです。

夢中になっている姿は、「うまくいっている」サイン

お子さんが遊びに夢中になって、時間を忘れて、何度も何度も繰り返しチャレンジしている。そんな姿を目にすることがあると思います。

この姿こそが、発達の土台が一番しっかり育っている瞬間です。

「楽しそうに遊んでいるだけ」に見える時間は、「うまくいっていないのかも」のサインではなく、支援が狙いどおりに進んでいるサインなのです。

えんりっちの療育で大切にしていること

えんりっちの療育は、この2つの理由を土台に組み立てられています。

「やりたい」が生まれる場を、専門的に設計する

子どもが自然に「やってみたい」と感じられる遊びをただ並べるのではなく、そのお子さんの感覚の発達段階に合わせて、遊びの中身や環境を調整しています

たとえば同じ「ブランコ遊び」でも、そのお子さんが今どの感覚を育てる段階にいるかによって、揺れ方や遊具の設定、遊びへの誘い方が変わります。作業療法士が「このお子さんには、こういう感覚の経験が必要」と見立て、保育士が「じゃあ、こうすれば楽しんでやってくれそう」と遊びに落とし込む。

専門的な見立てと、子どもが夢中になれる遊び。この2つが両輪で動いているから、「楽しいけど、ちゃんと育っている」時間をつくることができます。

小さな「できた」を、一緒に喜ぶ

遊びの中でお子さんが何かに挑戦し、ちょっとできたとき、私たちはその瞬間を見逃さないように努めています。

「今日はここまでできたね」と一緒に喜ぶ。その積み重ねが、お子さんの「またやってみたい」という気持ち(=インナードライブ)を支え、次のチャレンジへの力になっていきます。

なかがわ

えんりっちのブランドコピー「やりたいが芽吹く。できたが育つ。」には、こうした支援の考え方が込められています。

ご家庭でも、お子さんの「やりたい」を真ん中に

ご家庭での関わりについて少しだけお話しします。

感覚統合の土台を育てる遊びは、特別な遊具がなくてもできます

  • 公園のブランコ、滑り台、ジャングルジム
  • 砂場で山をつくる、穴を掘る
  • お風呂での水遊び
  • 布団の山にダイブ
  • 階段をジャンプで降りる(安全な範囲で)

大事なのは、お子さん自身が「やりたい」と感じている遊びかどうかです。

大人が「これをやりなさい」と決めた活動ではなく、お子さんが選んだ遊びに付き合ってあげる、ちょっと深めてあげる、広げてあげる。それだけで、発達の土台を耕す豊かな時間になります。

お子さんが何かに夢中になっているとき、少し立ち止まって、その姿を眺めてみてください。きっとその時、脳と体がいちばん学んでいる時間です。

家庭の遊びと、療育の遊び、どう違う? どう使い分ける?

ここまで読んで、こんな疑問を持たれた方もいるかもしれません。

「家でも遊びが大事なら、わざわざ療育に通わなくてもいいのでは?」

そうなんです。違いがなければ通う意味とは…となりますよね。
結論からお伝えすると、家庭での遊びも、療育での遊びも、どちらも子どもの育ちにとって大切です。ただ、役割が少し違います。作業療法士として療育の現場に立ってきた経験から、4つの違いをお話しします。

違い① 「なぜ今、この遊びなのか」の見立て

家庭での遊びは、お子さんが「楽しそう」「好き」と感じたものが、自然に選ばれていきます。それはとても健全な選び方で、日々の育ちにとって大切な時間です。

一方、療育の遊びは、「このお子さんは今、どの感覚が育ちかけているか」「何を伸ばすと、日常の困りごとの解決につながるか」という専門的な見立てを踏まえて選ばれます。

たとえば「姿勢が崩れやすい」というお悩みひとつとっても、背景にある感覚の課題はお子さんによって違います。前庭感覚が育ちきっていない場合もあれば、固有感覚の使い方に課題がある場合もある。見立てが変われば、選ぶ遊びも、遊びの中で注目するポイントも変わってきます。

なかがわ

鉄棒の前回りが難しいという相談を受けることがあります。

お子さんに前回りをしてもらうと、鉄棒を握って、頭を下げよう・・・とするところで「もうむり!」と顔を上げてしまいます。こんな様子を見ると、前庭感覚に過敏さがあるか、うまく扱えていないなと評価をします。

感覚が過敏であまりダイナミックな体の動きを経験していない、または、前庭感覚を感じる経験が不足しており、自分の体の動きをうまくとらえられずに不慣れな姿勢の際に不安感を感じるのだと考えられます。

こういった場合には無理強いをしても逆効果。大まかなステップとしては、

  • 頭が垂直(普段なれた姿勢)でのダイナミックな活動
  • 回転や大きな揺れを含む活動
  • 逆さ吊りや落ちて受け身を取る経験を含む活動

などを遊びの中に取り入れます。

そうすると徐々に自分の体が空間の中でどんな状態なのかわかるようになり、転倒しても手を出してしっかりと受け身が取れるようになったり、逆さづりでも笑ってピースするようになったりします。

違い② 「ちょうどいい難しさ」を設計する

感覚統合の療育では、「ちょっと難しいけれど、がんばればできそう」という絶妙な難易度の設定を大切にしています。

なかがわ

これをジャストライトチャレンジと呼んでいます。

簡単すぎると、お子さんはすぐに飽きてしまいます。逆に難しすぎると、「できない」という挫折感だけが残ってしまう。

その真ん中にある、夢中で挑戦できる難易度にお子さんを誘うこと。これが感覚統合の専門家が磨いている技術のひとつです。

ご家庭では、お子さんが自分で選んだペースで遊ぶのが自然ですし、それで十分です。ただ、「いつもと同じ遊び方」「いつもと同じ公園」に落ち着きやすいのも事実。

療育の場では、お子さんの発達段階に合わせて、遊具の高さを変えたり、揺れ方を調整したり、新しい挑戦の入り口を用意したりと、一人ひとりに合わせた”ちょうどいい”を細かく設計しています。

えんりっちにはボルダリングあります。

なかがわ

プロの業者に作ってもらったため、実は幼児さんには難易度が高くなってしまいました(汗)。

実際なんの配慮もないと、幼児さんが登ろうとするが諦める姿がちらほら。でも大丈夫。

例えば、足元にブロックを等間隔で置いておきます。そうすると、足元は少し安定し、そこで姿勢を安定させながら手だけはボルダリングのストーンを利用して渡っていきます。そのうち、ブロックの間隔を広げていくことで、少しずつボルダリングのストーンを使うことが増え、長い距離を自力で渡っていくことができていきます。

ジャストライトチャレンジの時には、お子さんは安心して試行錯誤ができます。

大きな失敗ではなく、「惜しい!」を敬遠しながら、もう少し頑張れば実現する成功のため、夢中になって取り組んでくれます。

違い③ 観察・共有・振り返りの仕組み

療育の現場では、遊びの中でのお子さんの反応を専門的な視点で観察し、記録し、チームで共有・振り返りをしています。

えんりっちでは週1回のスタッフ研修の時間を設け、「このお子さんには次にどんな支援が合いそうか」を作業療法士・保育士で検討しています。

ご家庭では、ここまでの記録や分析は必要ありません。毎日そんなことをしていたら、親子とも疲れてしまいます。家庭は、お子さんがほっとできる場所であることが一番大切です。

その代わり、日々のお子さんの様子を専門的に見て、次の一手を考える役割を、療育の場が担います。家庭では気づきにくい小さな変化や、困りごとの背景を言語化してお伝えすることも、療育の大切な役割のひとつです。

違い④ 困りごとが強いときの「入り口」をつくる

お子さんが何かを苦手にしていて、家庭でもなかなか改善の糸口が見つからない…。そんなとき、療育の出番があります。

たとえば「座るのが苦手」「食事の場面が苦痛になっている」「特定の音や触感にどうしても耐えられない」など、ご家庭だけで抱えるには難しい課題があります。

そういう場面で、遊びの中から自然な入り口をつくり、無理なくステップを踏めるように支援するのが、療育の得意とするところです。

家庭では「嫌がるからできない」で止まってしまうことも、専門的な見立てと遊びの設計があれば、「この角度からなら入っていけるかも」という道筋が見えてくることがあります。

家庭と療育は、役割が違うからこそ組み合わせる意味がある

まとめると、こんなイメージです。

  • 家庭の遊びは、お子さんの毎日を豊かにする土壌。ほっとできて、自分のペースで楽しめる場所
  • 療育の遊びは、その土壌の中で詰まっているところや、もう一歩伸ばしたいところに、専門的な視点から働きかけるもの

どちらかがあればいい、というものではなく、両方が噛み合うことで、お子さんの育ちが立体的に進んでいきます

「家庭の遊びだけで十分育っている」とお感じなら、それはとても素敵なことで、わざわざ療育に通う必要はないかもしれません。でも、「なんだかうまくいかないな」「これでいいのかな」と感じる場面が続いているなら、一度専門家の目を入れてみることで、見えていなかった道筋が見えてくることがあります。

えんりっちでは、ご家庭でできる関わり方のヒントも、セッションの中で保護者の方にお伝えしています。療育の時間だけでなく、ご家庭の時間も含めて、お子さんの育ちを一緒に考えていく

それが私たちの目指している支援のかたちです。

まとめ

療育で「遊び」を大切にするのには、2つの理由がありました。

  • 遊びは、発達のピラミッドの土台にあたる感覚や体の力を、自然なかたちで育てる
  • 子どもが「やりたい」と感じて取り組む活動だからこそ、脳に深く届き、最大の学びになる

お子さんが楽しそうに遊んでいる姿は、「ただ遊んでいるだけ」ではなく、発達の土台がしっかり育っているサインです。

えんりっちでは、感覚統合の考え方に基づいて、一人ひとりのお子さんに合った遊びを丁寧に組み立てています。お子さんの育ちで気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください。

えんりっちでは、「自分らしく、安心して育つこと」を支えるために、支援の考え方や方針も、できるだけ丁寧にお伝えするようにしています。

療育プログラムについても詳しくサイトでご紹介しています

また、「うちの子の場合はどうかな?」「ちょっと見学してみたい」と感じた方は、どうぞお気軽にご連絡ください。

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