「字が汚い」と叱るのはもう終わり。宿題バトルを解消し、書字を改善する「感覚統合」の秘密

なかがわ

こんにちは!
茨木市で児童発達支援事業や保育所等訪問支援事業を行っている「えんりっち」の中川です。

「もう少し丁寧に書いてごらん」
「ほら、また枠からはみ出してるよ」
「書き直し!」

夕方、仕事から帰ってホッと一息つきたい時間帯に、こんな言葉でお子さんを叱り続けていませんか?

小学校に入学してしばらく経つと、多くの保護者様が直面するのが「宿題(書字)」の悩みです。いわゆる「小1プロブレム」の一つとも言われますが、その悩みは想像以上に深く、毎日のことだけに親子の精神的な負担も大きくなりがちです。

  • 何度練習しても、ミミズが這ったような字になる(乱雑さ)
  • 「書くのが面倒くさい」と言って、すぐに突っ伏してしまう(疲れやすさ)
  • 黒板の字をノートに写すのに、驚くほど時間がかかる(視写の困難さ)

一生懸命教えているのに、ちっとも改善しない我が子を見て、「どうしてこんなにやる気がないの?」「私の教え方が悪いのかな…」と、ついご自身を責めてしまう方もいらっしゃるかもしれません。

でも、少しだけ深呼吸して、ペンを置いてみてください。 もしかしたら、その原因は「本人の努力不足」でも「しつけの問題」でもないのかもしれません。

ぜひ最後まで読んてみてください。

目次

「昔はHB、今は4B」が新常識? 筆圧から見る子どもの変化

私(37歳)が小学校の時は鉛筆と言えば「H」「HB」「B」のどれかを使っていたことを覚えています。

しかし、最近小学校訪問に伺うと「HB」は見かけなくなり、Bや2Bもしかしたら4Bを使っている児童生徒さんが多いことに驚きます。

この差は筆圧を強くするための手先の動かし方など体の発達が関わっているように感じています。

えんりっちでも、「子どもが嫌がる宿題をどこまでやらせるか」という相談を非常に多く受けます。

「毎日2時間、泣きながら宿題と格闘しています。もう親子ともに限界です……」

保護者の方は、「宿題をしないとますます勉強が苦手になってしまう」という不安から、必死に頑張らせようとします。また、今の小学校は親が宿題をチェックする仕組みが多いため、「親が何とかさせなければ」というプレッシャーも大きいのです。

しかし、2時間かけて何とか提出できても、専門家の視点では少し危険な状態と言えます。なぜなら、担任の先生には「その2時間の格闘」が見えていないからです。

ある保護者様が勇気を出して先生に現状を伝えたところ、「まさかそんな状態だとは思いませんでした!できる範囲で大丈夫ですよ」と言っていただけました。

なかがわ

そこからお子さんの苦手さの要因が判明し、適切な支援に繋がったケースもあります。

その悩み、実は「努力不足」や「しつけ」の問題ではありません

私たち大人は、普段何気なくペンを持ち、スラスラと文字を書いています。

しかし、作業療法士の視点で見ると、「文字を書く」という行為は、実は脳と身体による、とてつもなく高度な連携プレーによって成り立っているのです。

想像してみてください。 もしあなたが、「分厚い手袋をして、揺れる船の上で、針に糸を通してください」と言われたらどうでしょうか? きっと、うまくできずにイライラしたり、「もうやりたくない!」と投げ出したくなったりするはずです。

「字が汚い」「書くのを嫌がる」お子さんの身体の中では、これと同じようなことが起きている可能性があります。

専門的には「発達性協調運動症(DCD)」と呼ばれる傾向や、手先の不器用さが背景にある場合、いくら机の上で「書く練習」を繰り返しても、根本的な解決にならないことがあります。 それは、本人がサボっているからではなく、「書くための身体の土台(感覚や姿勢)」が、まだ十分に育っていないというサインかもしれないのです。

文字を書くのは「超・高度な運動」。きれいに書くために必要な「3つの土台」

「もっときれいに書きなさい!」 そう言いたくなる気持ちは痛いほど分かりますが、ここで少し視点を変えてみましょう。

文字を書くために必要なのは、指先の器用さだけではありません。実は、以下の3つの土台がしっかりと育っている必要があるのです。

1. 姿勢を保つ力(体幹):ぐにゃぐにゃしていませんか?

身体がぐにゃぐにゃしていませんか? 姿勢が崩れると、腕や手先を安定して動かすことができません。土台がグラグラの場所で積み木をするようなものです。

2. 眼球運動(見る力):黒板の視写で疲れていませんか?

黒板とノートを交互に見たり、文字の線を正確に目で追ったりする力です。ここが弱いと、板書を写すだけで疲れ果ててしまいます。

3. 力加減(固有受容覚):鉛筆の濃さが極端ではありませんか?

  1.  鉛筆を「ちょうどいい力」で握り、動かす感覚です。このセンサーがうまく働かないと、筆圧が極端に強くなってすぐに手が痛くなったり、逆に弱すぎてへなへなした字になったりします。

つまり、「字が汚い」というのは、お子さんからの「まだこの3つの土台が完成していないよ!」というSOSかもしれないのです。

机上の練習ゼロで改善? 論文が証明した「感覚統合遊び」の驚くべき効果

「じゃあ、どうすればいいの? やっぱりドリルで練習?」 そう思われるかもしれませんが、実はその逆を行く興味深い研究結果があります。

ある研究によると、書くことに苦手意識を持つ小学2年生のグループに対し、「机の上での書字練習」を一切行わず、週2回、全身を使った「感覚統合遊び」だけを行いました。

行った遊びの例

  • トランポリンやブランコ(姿勢とバランス感覚を育てる)
  • ボール遊びや風船バレー(動くものを目で追う力を育てる)
  • 重いものを運ぶ、粘土遊び(力加減の感覚を育てる)

するとどうなったと思いますか?

10回の遊びのセッションを終えた後、なんと約7割のお子さんに「字が枠に収まるようになった」「黒板を写すのが速くなった」「疲れにくくなった」といった明確な改善が見られたのです。

鉛筆を握らせて特訓したわけではありません。

思いっきり遊んで、「身体という土台」を作った結果、自然と「書く力」が底上げされたのです。

これこそが、私たち作業療法士が「訓練」よりも「遊び(環境デザイン)」を大切にする理由です。

【実践】 鉛筆を置こう。お家でできる「書く力」を育てる身体遊び

「宿題をしなさい!」と叱る代わりに、今日からお家でこんな「遊び」をしてみませんか? お子さんも喜び、結果的に学習の土台作りにもなる一石二鳥のアプローチです。

① 筆圧が強すぎる・乱雑なお子さんへ

  • 粘土遊び・パン生地こね: グッと力を入れる感覚(固有受容覚)が育ち、鉛筆のコントロール力が向上します。
  • お買い物袋運び・雑巾がけ: 身体全体を使うことで、体幹と腕の使い方が安定します。

② 黒板を写すのが苦手・時間がかかるお子さんへ

  • 風船バレー・キャッチボール: 動くものを目で追うことで、眼球運動がスムーズになります。
  • 間違い探し・迷路: 楽しみながら「見る力」を養えます。

まとめ「急がば回れ」。まずは身体という「土台」作りから

毎日の宿題バトルは、親御さんにとってもお子さんにとっても辛いものです。 でも、「字が汚い」のは、お子さんの性格のせいでも、お母さんの教え方のせいでもありません。

焦ってドリルを買い足す前に、まずは一度、専門家の視点に頼ってみてください。 えんりっちでは、お子さんの「不器用さ」の原因がどこにあるのかをアセスメント(評価)し、その子にぴったりの「遊びの処方箋」を作ります。

「書く練習」から離れて、思いっきり遊んだ数ヶ月後。「あれ? 最近字がきれいになったね」と親子で笑い合える日が、きっと来ますよ。

参考文献

白石純子 他 (2021). 発達性協調運動症のある子どもの書字困難の特徴と感覚統合療法の効果. LD研究, 30(1), 58-72.(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jald/30/1/30_58/_pdf/-char/ja

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