落ち着きがないのは“ワガママ”じゃない? 感覚統合の専門家が教える、やる気を支える“やさしい”関わり方

なかがわ

こんにちは!
茨木市で児童発達支援事業や保育所等訪問支援事業を行っている「えんりっち」の中川です。

「授業参観に行ったら、うちの子だけソワソワして席を立っていた…」
「食事の時間なのに、何度も椅子から離れて遊び始めてしまう」
「お友達と遊ぶと、つい力が入りすぎて押してしまったと注意されることが多い」

子育てをしていると、こうした場面に何度も出会うことがありますよね。

そのたびに、「私の育て方が悪いのかな…」「どうしてうちの子だけ、じっとしていられないんだろう」と、不安になったり、ご自身を責めてしまったりすることもあるかもしれません。

もし、その行動が「ワガママ」や「しつけの問題」ではなく、子ども自身も困っている、「感覚」のアンバランスさが原因だとしたら、少し見方が変わるかもしれません。

文部科学省が2022年12月13日に発表した調査結果によると、通常の学級に在籍する児童生徒のうち、学習面または行動面で著しい困難を示し、特別な教育的支援を必要とする可能性がある子どもは、小学校・中学校で8.8%、高等学校で2.2%でした。

この調査は、今後の施策の基礎資料とすることを目的としており、学級担任等による回答に基づいて困難な状況を把握したものです。なお、この数値は医師による発達障害の診断に基づくものではなく、あくまで「特別な支援が必要と考えられる児童生徒の割合」を示しています。
参考:https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/1421569_00005.htm

なかがわ

この記事では、私たち作業療法士・感覚統合セラピストの視点から、落ち着きのなさの「本当の理由」と、お子さんへの関わり方が少し楽になる「やさしいヒント」をお伝えします。

目次

『落ち着きのなさ』の一般的な原因と、感覚統合の専門家が伝えたい”本当の理由

一般的に、子どもの落ち着きのなさの原因は、「脳がまだ発達の途中だから」「好奇心旺盛な性格だから」「環境の変化でストレスを感じているのかも」など、様々に言われています。

確かに、それらも一因ではあります。

なかがわ

しかし、私たち作業療法士が、様々な“困りごと”の背景として最も注目するのは『感覚統合』のつまずきです。

「感覚統合」というのは、あまり聞き慣れない言葉かもしれませんね。

「感覚統合」を、一言でたとえるなら「脳の交通整理」のようなものです。

私たちは、目(視覚)や耳(聴覚)、皮膚(触覚)など、たくさんの感覚を使って周りの世界の情報をキャッチしています。

そして脳は、それらの情報を整理整頓し、状況に合った行動を指令する、いわば交通整理の役割を担っています。

この交通整理がうまくいっていないと、脳の中は情報でごちゃごちゃの渋滞状態。

子ども自身も混乱してしまい、その結果が「落ち着きのなさ」といった行動として外に現れてくるのです。

「先生の話を聞く」ができるためのレディネス(ここと・からだ・あたまの準備状態)とは

大人はいろんなことが自然にできていると思います。
言うなれば、「感覚統合」が適切にされながら発達した結果です。

しかし、自分がどのように発達してきたかなんて覚えている人はいません。

大人はどうしても色々なことを「当たり前」と感じやすく、子どもの様子を見て「なんでできないの?」と思ってしまうものなのです。

しかし、何かができるようになる(発達する)ためには、その前のステップが十分に経験され、土台となる能力ができるようになっていることが条件です。

そのような条件が整った状態を「○○を学ぶためのレディネスが整っている」と表現します。

レディネスには、意欲や興味、自信といった「こころ」、感覚の感じとりや運動能力、スキル、道具の扱いなどの「からだ」、物事に対する知識や言葉、読み書きや計算などの学習スキル、記憶や思考力などの「あたま」などがあると言えるでしょう。

なかがわ

大人でも人材育成の場面等で『レディネス』が使われますが、文脈としては子どもも大人も同じですね。

このレディネスがしっかりと整っていると、子どもたちは新しい事柄に出会っても、意欲的にチャレンジし、新たな能力を前向きに獲得していきます。

反対に、レディネスが整っていない場合には、過剰な努力が必要で、チャレンジしていても余裕がなく不安になってしまったり、その場ではできるようになってもしばらくするとできなくなるといったことが起こりやすくなります。

『先生の話を聞く』大人にとってはできて当たり前ですが、幼児期〜小学校低学年あたりまでは、条件が整わないと中々に難しい能力と言えますね。

【具体例】『話を聞く』のレディネスは?

では、具体的に「話を聞く」ことのレディネスとはどんなことでしょうか?

「からだ」「あたま」「こころ」の3つの視点でご説明します。

からだ:感覚や運動、スキル、道具などの視点

  • 体からの感覚(触覚や前庭感覚、固有受容覚)が満たされており、脳の働きが活性化されていること
  • 常に届いている様々な感覚に不快感を感じずに、その場にいることに安心していること
  • 自分が「いま」「ここ」にいるという感覚が明確で、話している先生との位置関係が整理されていること
  • 先生の話しを聞くこと以外の感覚を抑制し、聴覚に集中すること
  • 座っている時の姿勢を保ち続けること、また姿勢保持が自然にでき、話を聞くことに注意を向けられること
なかがわ

体の感覚が整い、受ける感覚に不快感を持たずに、姿勢を保ちながら聴覚に集中できる状態が必要となります。

あたま:ことばや知識、記憶、思考、学習スキル

  • 先生が話していることばを理解すること
  • 理解した内容を覚えて、前後の文脈と照らし合わせながら文章を理解すること
  • あいまいな表現でも推測して、実際の場面に合わせて理解できること
  • その結果、とるべき自分の行動として、ありありとイメージできること
  • 必要であれば、説明の中で足りない部分について気づき、質問できること
なかがわ

言葉を理解し、内容を記憶・整理して、自分の行動に結びつけられる認知能力が求められます。

こころ:意欲や興味、自信、社会性

  • 先生のお話に興味が湧くこと(過去に話を聞いて楽しい、嬉しい経験をした)
  • お話の内容や行動について能動的(「やってみたい」「やれそう」)な気持ちが湧くこと
  • 静かにお話を聞く自分に「良い」と感じること(ルールが守れて、お友達と同じ行動でなど)
なかがわ

話を聞くことに対する前向きな気持ちと、集団の中で適切に振る舞える心の準備が大切です。

このように、話を聞くためには様々な能力が育ち、レディネスが整うことが必要です。

これを見て『うちの子にこんなにたくさんのことができるのかしら…』と不安になる必要はありません。大切なのは、お子さんがこれらの力を育みやすい環境を整えてあげることです。

「訓練」ではなく「環境のデザイン」という、やさしい解決策

「うちの子は、もしかしたら感覚にアンバランスさがあるのかも…」

そう感じた時、私たちはつい「落ち着いて座っていられるように練習させなきゃ!」と考えてしまいがちです。

でも、少し待ってください。

落ち着きがない子を、無理やり椅子に座らせる「訓練」をする必要はありません。

子ども自身を変えようとするのではなく、子どものレディネスが整うように、周りの環境を少しだけ調整してあげること。それが、私たち専門家が最も大切にする『環境のデザイン』という考え方です。

ご家庭でもすぐに試せる、簡単な「環境のデザイン」の例をいくつかご紹介しますね。

体からの感覚が不足して、刺激を求める子(鈍感な子)へのアイデア

勉強や食事の前に、体を動かす時間を作る

5分だけトランポリンで跳ねる、親子で雑巾がけ競争をするなど、脳にしっかり刺激を入れてからだと、その後の活動に集中しやすくなります。

感覚に不快感を感じ、刺激から逃れたい子(過敏な子)へのアイデア

集中したい時はイヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンを使ってみる

「音」の刺激をシャットアウトするだけで、驚くほど穏やかになることがあります。

落ち着きのなさや発達に関してよくあるご質問(Q&A)

ここまで読んで、いくつか疑問が浮かんできた方もいらっしゃるかもしれません。

なかがわ

保護者の方からよくいただくご質問にお答えしますね。

落ち着きがないのは、もしかして発達障害なのでしょうか?

「落ち着きのなさ」が、ADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害の特性として現れることは確かにあります。ですが、私たちがここで診断をすることはできません。

私が大切にしているのは、「なぜ、この子は今この行動をしているのだろう?」とお子さんの内面に寄り添い、その子に合った環境を整えてあげることです。

今回ご紹介した「環境のデザイン」は、診断の有無にかかわらず、すべてのお子さんの過ごしやすさに繋がるアプローチです。

この落ち着きのなさは、大きくなれば治りますか?

脳の発達とともに、自分の感情や行動をコントロールする力は少しずつ育っていきます。

そのため、子どもの頃に目立っていた落ち着きのなさが、年齢とともに穏やかになることは十分に考えられます。

ただ、感覚の過敏さや鈍感さといった根本的な「特性」は、大人になっても残ることが多いです。成長するというのは、特性が「治る」ことではなく、様々な経験を通して、その「特性との上手な付き合い方」を自分なりに見つけていくこと、と私たちは考えています。

専門家への相談は、どんなタイミングで考えればいいですか?

もし、お子さんの落ち着きのなさが原因で、日常生活に大きな支障が出ている場合は、一度専門機関に相談することをおすすめします。 例えば、

  • ケガが絶えない
  • お友達とのトラブルが頻繁に起きる
  • 集団生活に馴染めず、本人が登園・登校を嫌がる
  • 保護者の方が心身ともに疲れ切ってしまっている

このような状況が見られたら、一人で抱え込まずに、かかりつけの小児科や地域の発達相談窓口、そして私たちのような作業療法士を頼ることを考えてみてください。

まとめ:お子さんを「感覚の専門家」の視点で見てみませんか?

子どもの「落ち着きのなさ」は、決して「ワガママ」や「しつけの問題」ではありません。

それは、その子が今、「脳の中で交通渋滞が起きていて困っているよ!」と教えてくれる、大切なサインなのです。

なかがわ

そして、そのサインを一番に受け取ってあげられるのは、毎日そばにいるお父さん、お母さんです。

この記事をきっかけに、「この行動は、どんな感覚のサインなのかな?」と、わが子を**『感覚の専門家』**の視点から見つめ直してみませんか。

その新しい視点が、きっと、お子さんへの理解を深め、保護者の方の心を少しだけ軽くしてくれるはずです。

「感覚統合」について、もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

保育園や学校での具体的なサポートについて知りたい方は、専門家がお子さんのもとへ伺う「保育所等訪問支援」という方法もあります。

先生方へ

「まずは情報収集だけしたい」「管理職にどう説明すればいいか相談したい」といった段階でも、もちろん大歓迎です。作業療法士がお話を伺い、それぞれの園や学校に合った活用の形を一緒に考えます。

保護者の皆さまへ

「利用するにはどういう手続きが必要?」「料金は?」といった具体的な疑問にお答えします。園や学校に相談する前に、まずは専門家の話を聞いてみたいという方も、お気軽にお問い合わせください。

目次